2022年4月5日。流産してまだ一日しか経っていないのに、やけに長く感じた。
出血はまだずっと続いている。
流産した翌日だというのに、体調はそんなに悪くはない。
昨日も今日も一緒にサトル君とたくさん泣いた。
一生分泣いたんじゃないかってくらい。
サトル君は朝早くいつものように仕事へ行き、わたしもバイトへ行く準備を始める。一見普段通りの日常だが、わたし達は小さいけれど、大きな、とても大きな存在を失った。わたし達の可愛い赤ちゃん。
わたしはずっと流産した理由が、自分にあるのではないかと責め続けていた。
バイトには行ったが、心が限界だった。
その日、なんとか仕事をこなしランチのバイトを終えた後、初めてサトル君の新しい職場に行く事になった。
今は一人になりたくない。
サトル君がワンオペで働く都内のラーメン屋。
ラーメン屋に向かう途中、ある事を後悔した。
(お腹に赤ちゃんがいる頃に一度でも行けばよかったな)
何をしていてもどこにいても、いなくなった赤ちゃんの事を考えてしまう。
ちょっと前までずっと胸が張っていたのに今は一切なくなりさみしい。
お腹に赤ちゃんがいた時、とにかく幸せで仕方なかった。
つわりで気持ち悪いのに、赤ちゃんがいると思うと幸せだった。
残酷だが、稽留流産で赤ちゃんの心拍が止まった後もつわりなどの症状が続く事があるという。
それを妊娠したばかりの頃から知っていても、つわりがあると妊娠してる事を実感して幸せを感じていた・・・。
サトル君が働くラーメン屋に着いた時、夕方と昼間の間のような微妙な時間帯だったのでとても空いていた。
仕事着を着てラーメンスープをかき混ぜるサトル君の姿を見ると、なんだか感動した。
(この人も、ずっとこの数日間泣き叫んだくらい悲しい思いをしたのに、頑張って生きてるんだ)
サトル君が作るラーメンはあたたかくてめちゃくちゃ美味しかった。
「わたし、このパパのラーメンのファンになりそう」
サトル君の事は、サトル君、と呼ぶ事もあれば、パパ、と呼ぶ事もある。実はこのパパ、と呼ぶ習慣は妊娠するずっと前からである。
「今日のスープは美味しいでしょう」
誇らしげにサトル君が言った。
世界一優しい味がした。
それから時間がまた流れて2022年4月13日。
この日は、エコーで経過を診ていただくのと病理検査の結果を聞きに行く。
流産した日からもうすぐ十日ほど経つというのに、わたしは相変わらず気持ちがずっとふさぎこんだままだった。
時間がある程度たてば、次第に泣かなくなり前を向けると思っていたが、毎日毎日泣いていた。
赤ちゃんが元気だった頃のエコー写真や自然排出の進行流産ででてきた赤ちゃんの写真を眺めては、可愛い可愛いと言って泣いた。
とにかくずっとあの稽留流産と宣告された日から時間が止まっていて一歩も前に進めていない気がした。
「子宮の中は綺麗になってますね」
エコーで院長先生に流産後の経過を診ていただきそう言われた。
空っぽになった子宮の中をうつすエコーは前回同様虚しさを感じたが、院長先生の言葉にほっとした。
病理検査の結果も異常はなかった。
渡された検査結果の紙に、赤ちゃんの体のイラストとサイズが書かれていた。
赤ちゃんは4cm近くまで成長してくれていた・・・。
帰り道、産婦人科を同じタイミングで出たお腹の大きな妊婦さんが同じ帰り道なのかわたしの後ろを歩く。
妊娠さんは嬉しそうに電話で誰かと話しながら歩いていた。
わたしは妊娠さんが歩く前で早足になり、泣いてしまった。
泣いてばかり。
ほんの少し前までは電車や道端で妊婦さんやベビーカーを見かけると嬉しくてたまらなかったのに。
今はつらい。つらくて仕方ない。
こんな負の感情を抱いて自分は嫌な奴だな、と思った。
毎日見ていたSNSからも一旦距離を置いて見なくなってしまった。
今は少しずつだけど、回復していってる気がする。
2022年4月14日。
進行流産後の経過のエコーで、子宮内が綺麗になって完全流産になったのを確認できた翌日。
気持ちがなんとなく以前より落ち着いたのは、二週間近くずっと続いていた出血がようやくおさまったからなのもあった。
バイトの後、この日もまかないを持ち帰り用のタッパーにいれて、サトル君が働くラーメン屋に行く。
サトル君のラーメンは本当に美味しい。
近所にあれば、間違いなく常連客になっていただろう。
「美味しい」
この日も雨で寒かった。そんな日のラーメンはまた格別だ。
サトル君が仕事終わるまで店内で待ち、一緒に帰る。
その帰り道。
突然、大浴場と朝ごはんバイキングのある都内のホテルに泊まる事になった。翌日は二人とも休み。
数日前から、ずっと気分転換になるか分からないけど、都内のホテルに泊まりたいね、と話していた。条件は大浴場と朝ごはんバイキングがついている事。
しかし、その頃はまだ進行流産の途中で出血も続いていたため予約はしなかった。
それなのに、突然ホテルに泊まることに。
わたしの出血がおさまってるのと、前日子宮内が綺麗になっている事を確認できたからだ。
温泉とサウナがある大浴場付きの綺麗なホテル。
何も用意していないので、コンビニと薬局をはしごして化粧落としや化粧水、お酒を買う。
流産してからもわたしはこの日まで一切お酒を飲んでいなかった。まだ体が妊娠していると錯覚しているかのように飲みたくならなかった。
しかし、この日一月以来初めてお酒を飲もうとなんとなく決めた。
風呂上がりのお酒。数ヶ月間飲んでいなかったからか、お酒がかなり弱くなり、全然飲めなかった。(写真のお酒はほとんどサトル君が飲みました)
しかし、少量のお酒で酔いが回って、赤ちゃんの事を思いながら大号泣してしまった。
サトル君もわたしを抱きしめながら泣いた。
お酒を飲んでゆっくりしてから夜鳴きそばを食べに行く。
このホテルの名物?らしく、無料で食べられる。
サトル君が作ってくれたラーメンを食べた日にまたラーメン。贅沢だなぁ。
あっさりとして美味しかった。どこか懐かしい味がした。
夜鳴きそばを食べた後はまたサトル君と一緒に大浴場へ。
内風呂と露天風呂とサウナがある充実した大浴場。小雨が降る中わたしは露天風呂でぼぉーっと空を眺めた。
お風呂に浸かりながらまた静かに泣いた。
こんな時間もいいな、とふと思う。悲しくて悲しくてふさぎこみながらお家で泣く時間もわたしには必要だったけど。
お風呂とサウナでリフレッシュして部屋に戻る。
コンビニで買っておいた牛乳を飲んだ。
風呂上がりの牛乳は格別だ。
なんて美味しいのだろう。
翌朝は起きてお風呂に入った後、バイキングの朝食会場へ。
種類がとても豊富で美味しそう。
なんといくらが食べ放題。まるで夢のような朝食。
デザートも美味しかった。
都内で働くふたりが都内のホテルに泊まる。
たった一泊なのに、旅行で遠出しているかのような気分でかなりリフレッシュできた。
以前も都内のホテルに泊まった事があり、とても楽しかった事を思い出した。
その時の話はこちらから
なぜ、稽留流産で自然排出した話から、都内のホテルで一泊した話を書いたかというと、わたしの中で全部つながっているからだ。
流産して、立ち直れないと思ってずっとずっと泣いてばかりいたが、場所を変えたり、いつもと違う気分転換になるような事をして、かなり救われた。
また、流産したわたしの事を心配してくれた親友から
「辛い分、きっと幸せがくる。今は泣きたいだけ泣いたらいい、辛いに決まってる。聞いたわたしでも辛いんやから」
とメッセージをもらった事もかなり支えになっている。
もうひとりの親友も、わたしと赤ちゃんのために泣いてくれた、と言ってくれた。
親友ふたりにも赤ちゃんがいて、わたしは大好きな親友が幸せである事を心から嬉しく思う。
SNSでも、あたたかい言葉をかけてくださった方が数人いらっしゃって、かなり救われました。
悲しい気持ちを共有していただき申し訳ないのもありますが、それ以上に感謝と支えられている気持ちが大きいです。ありがとうございます。
少しずつ、一歩一歩進んでいこうと思います。